[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
夕方の商店街は人でいっぱいだった。
「手芸用品屋って一番はじなんだよねぇ。」
ぼやきながら歩く。 と、スーパーの前を過ぎた辺りで後ろから肩を叩かれた。
「や、買い物?」
振り向くと同じクラスの猿飛君が立っていた。 思わず力の抜けそうなへらりとした笑いとともに。
「うん、猿飛君も?」 そ、と一緒に歩き出した猿飛君は、持っていたスーパーの袋を軽くあげて見せた。
「大変だねえ、主婦は。」
「まったくね・・・って、違う!主婦じゃないから。でもスーパーじゃないなら何買いに来たの?」
「うん、ちょっとゴム買いに。」
縫い物をしている途中で平ゴムが足りなくなってしまったのだ。 半端なところで終わらせるのも悔しい気がして急きょ買いに来たというわけなのだが。
「ゴ・・・ム?」
さっきとは違う声の調子にふと横を見ると、猿飛君が赤いんだか青いんだか分からない顔でこちらを見ていた。 足は完全に止まっている。
「うん、ちょっと足りなくなっちゃって・・・どうしたの?気分でも悪い?」
「あ、いや・・・だ、だったらここじゃない?ほら、薬局。」
へ? 猿飛君が指さした先を見ると、確かに目の前は薬局で。
でも、なんで薬局?
「お、俺ここで。じゃ・・・」
なんだかぎこちない動きで去っていく猿飛君を見送りながら、私の頭の中は『?』マークでいっぱいだった。 猿飛君、なに勘違いしてるんだろう。 薬局にあるわけないじゃない。だって私が買いに来たのはゴム・・・で・・・。
次の瞬間、その場にうずくまりそうになった。
え?ちょっと待って。 私、さっきなんて言った?ゴム?ゴム買いに来たって言った? 平ゴムとか言わなかった?いや、言わなかった! 言っても分かんないだろうと思って説明するのめんどくさくてゴムって言った! で、猿飛君はそれが薬局で売ってるものだと思ってて
「やだ、嘘、ちょっと待って!」
人混みの中をすり抜けながら、必死で走った。 猿飛君の誤解を解くために。
間に合うことを祈りながら。