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今日もいい天気。 お姉ちゃんは学校だし、お父さんはお家でお仕事だから、メイひとりで遊ばなきゃならないけど、 引っ越してきたお家は庭が広くて面白い。
トカゲを追いかけていたら、入り口の小さな川のところにきた。 水の中で何かが揺らめいているのが見える。 そうだ、あそこにお魚がいるってお姉ちゃんが言ってたっけ。 魚とりしよう。井戸のそばにバケツがあったはず。
「あれ」
バケツを持ち上げて気がついた。穴があいてる。
「そこぬけだあ。」
そのまま、バケツの穴から庭をながめる。 さっきまで見ていた景色が違って見えておもしろい。 あ、お家が見えた。
あれ?
縁の下に緑色の固まりがある。なんだろう。
「おじちゃん、だあれ?」
無邪気な声に振り向くと、小さな女の子がしゃがんでこちらを覗き込んでいた。 しまった、油断しすぎた。
「ねえ、おじちゃんだあれ?まっくろくろすけ?」
日に焼けた赤茶けた髪。ふっくらした頬。 大きな目は、いかにも好奇心旺盛というようにきらきらと輝いている。
でもおじちゃんはないでしょう、おじちゃんは。 ま、相手は子供。ここは適当に誤魔化しておこう。
「やあ、こんにちは。お兄ちゃんはねえ、実は森の妖精なんだよ。 ほら、木の葉みたいな着物を着てるだろ?」
「妖精?」
「そう。隣の森から遊びに来たの。でもよく見えたねえ。妖精は誰にでも見えるわけじゃないんだよ。 きっとお嬢ちゃんはとってもいい子なんだね。」
我ながらぺらぺら出るなあ。
「お嬢ちゃんじゃないもん、メイだもん。おじちゃん、ひょっとして、トトロ?」
「そうだよ。よく知ってるねえ。でもおじちゃんじゃなくてお兄「すっごーい!」
トトロってなんだろ、と思いながらも合わせてやると、女の子はそれはそれは嬉しそうに歓声をあげた。
「あー、静かにねー。お兄ちゃんは特別な子以外に存在を知られちゃいけないの。」
「そんざい?」
「あ、分かんないか。えっと、他の人にお兄ちゃんのことは言わないで欲しいんだ。 もし言っちゃったら、お兄ちゃんは2度とメイちゃんに会えなくなっちゃう。」
「やだ!」
「そーだねー。だから、しー、ね。」
「うん!メイ、誰にも言わないよ!」
人差し指を立てて念を押すと、子供は大きく頷いた。
「ありがとー。じゃ、お兄ちゃんもう行くから。メイちゃん、またね。」
そのまま逃げるつもりだった体が動かない。 見ると、小さな手が俺の装束を、しっかり掴んでいる。
「まだ行かないで!ね、メイと遊んで!」
「ごめんね、メイちゃん。お兄ちゃんも忙しいんだ。」
「ちょっとだけ。でないとトトロに会ったってお父さんに言っちゃうから。」
「えー・・・」
しょうがないなあ。
「じゃあ、ちょっとだけだよ。」
「うん!」
いつまでもこんなところにいたら、誰に見られるか分からない。 女の子を抱えると地面を蹴った。
「わー・・・」
そばの森に入り、枝をつたって木の上に出る。 さすがに怖がるかと思いきや、腕の中の子供は、楽しそうに笑った。
「すっごーい!高ーい!」
「・・・怖くない?」
「なんで?」
ひときわ高い木の上で腰を下ろし、二人で景色を眺めた。
「電車が見えるー。」
「そうだねー。」
「あれがお姉ちゃんの学校?」
子供はふと思い出したように俺の顔を見た。
「ね、病院も見える?」
「病院?」
「えっとね、しちこくやま病院。」
「七国山かー、こっからはちょっと無理だな。」
「どっち?」
「あっち」
どのみち見えはしないものを、子供は懸命に首を伸ばした。
「見たかったの?なんで?」
「お母さんがねえ、入院してるの。」
「・・・ふーん。」
泣かれたらやっかいだな、なんて思ったけど、そうはならなかった。 子供は、ただ黙って、その方向をずっと見つめていた。
「・・・お母さん、なにしてるかな。」
「きっとメイちゃんのこと考えてるよ。」
「そっかな。」
「そうだよ。」
そのまま二人で心地いい風に吹かれていたら、不意に膝の上の体が重くなった。 見ると、メイちゃんがこちらに体をもたれかけてぐっすり眠っている。
やれやれ。
仕方ない。 もうしばらくしたら、庭の外れにでもおいていこう。
一時間後。
「メイね、トトロに会ったんだよ。緑色の服着てて、赤い髪してて、メイを抱っこしてぴょーんってとんだの!」
「お父さーん、メイが庭に泥棒がいたってー!」